<11月3日(土)>
シュロスガルテンにあるErlangen大学の校舎の蔦が,真っ赤に紅葉している。写真は,オリジナルの大学図書館。モダンな新館がこの向かいにあるけど,風情はこちらの方がずっとある。姜尚中氏の留学時,この図書館におられたという話を聞いた。 手前の道路標識,はずせないかなぁ… |
エアランゲン大学の図書館の蔦も真っ赤 |
1週間,フランクフルト。少し前にドイツ国際教育研究所を引退したKopp氏と会った。4時間ほど,国内外の教育の話をした。日本では,文科大臣が3つの大学の新設をリジェクトしたこと。野党の党首が,教育再生会議を主催した人であること。もうじき選挙がありそうなこと。この党首が総理になると,教育界にまた大きな破門が起こるかも知れないこと。日本ではデジタル教科書の導入が急なこと。スレートコンピュータもたくさん使われ始めていること。それに関わるさまざまなプロジェクトが動いていること。
一方で,ドイツではメディアをたくさん用いる学校と,旧態依然とした学校の差が激しいこと。教育界のテーマが次々に変わっていくこと。教育にあてる予算は相変わらず厳しいこと。ICTのスペックがドッグイヤーで変わっていくので,導入を進めるのにとても困ること。16州の教育制度や考え方は,これまた相変わらず大きく違っていること。Kopp氏自身は,研究所を辞めたことで,プロジェクトによる収入を得ることができるようになったこと。
ICTは単なる道具で,理解や思考過程に注目した教育や教材が必要だという話もしながら,春に出した『シンキングツール〜考えることを教えたい〜』のことや,Dの村川君が開発した「マスピード」など,ICTと連動させることもできるけど,むしろ頭の活用にこだわった教育方法の話にもなった。マスピードは計算に関する教材だけど,「日本人の計算力はすごいのに,更にこれが必要なのは何故?」と聞かれた。「ただの計算力じゃない」という説明をしたけど,外から見れば日本人の計算の力はたいしたものなのですね。
…いろんな情報を交換して,あっという間に時間が経った。いい時間だった。
ムスターシューレというギムナジウム8年生の授業を見学。iPadを用いた映像編集。テーマは神。教科は宗教(カソリック)。神のイメージを描いた絵画を見せながら(ズームしたりパン・ティルトしたり)解説する映像を作るという企画。解説の中に,神や絵画への理解が含まれる。アクティビティの進度差が気になったものの,作品の完成度はかなり高い。ナレーションがよく練られていて,編集もうまい。iMovieのおかげではあるけど,内容的にはそれまでの学習の成果が出ている。
ムスターシューレ |
神のイメージ |
神のイメージについての解説を シナリオ化する |
エコーのある廊下でナレーションの録音 |
フランクフルトのコミュニケーション博物館。通信関係の博物館で,こぢんまりとしている。地元の高校生が見学に来ていた。
通信の歴史や通信・放送関係の機器などの展示。ドイツポストの郵便馬車や,フォルクスワーゲンの配達車など,楽しかった。とてつもない大きさの(枠だけ)豪華テレビなども展示されていた。ドイツで使われてきた切手のコレクションは,見る人が見たら楽しいだろうな。
郵便馬車 |
Kuba Kommet 1223という やたら豪華なテレビ |
<11月9日(金)>
富山大学のT橋先生と学生さんたちが来独。羽田からの早朝到着便でフランクフルトについた。ホテルに荷物を置いただけで,そのままSバーンで40分ほどの,Rodgauに移動。ここのハインリッヒ・ボル総合学校の授業を見学。生物の実験と,歴史のプロジェクト学習を参観したあと,案内をしてくれたPetra先生と1時間半ほどの質疑。充実した時間を過ごせた。夕方はレーマーに立ち寄ったあと,やはりフランクフルトに来ていたお弟子さんと会ってたかみさんと合流して,みんなで食事。 |
ハインリッヒ・ボル総合学校 |
生物の実験 外耳に見立てた装置に向かって話している (息を吹き込んでるようにみえるけど) |
戦前戦後の歴史についてのプロジェクト学習 |
Schwarzer Sternでの食事 |
午前中,おなじみマインツのグーテンベルグ博物館。2回目だと,前と違ったところをじっくり見られる。やはり面白い博物館だ。いろいろいじりたいけど,それはできない。まあ,当たり前かな。リトグラフの技術の高さには,毎回びっくりする(原理を正確には理解していないけど)。地図の版など,信じられない精巧さ。
シャガールのステンドグラスのあるザンクト・シュテファン教会の雰囲気には言葉がない。電飾の青は嫌いだけど,この青は深い。青の基調に黄色や赤が創り出す光が目に優しい。雨の日だったので太陽光が床に射すことはなかったけど,晴れの日に来たらもっと綺麗なはず。いい所だ。
シャガールが描いたステンドグラス St. シュテファン教会 |
夜は,ノイエ・オパーで,ドビュッシーのペレアスとメリザンドの観劇。残っている中ではかなり良い席をとったはずだけど,なんともなぁ…。隣の席のおばさんは,はじまると同時にポストイットになにやら書き続け。第2幕を見ないで出て行ったと思ったら,休憩後の第3幕にまた現れてメモ。第4幕は見ないで帰る。この挙動の怪しさ,おそらく評論家だろうね。そして,その更に隣の人がですね…。フランス語のこのオペラの字幕を見るためか,ぐっと身を乗り出すので,われわれは舞台も字幕もほとんど見ることができなかった。こういうとき,お願いする勇気はなかなか出ない。T橋先生たちは,3階席だったので,おそらく大丈夫だっただろう。
<11月11日(日)>
ケルンはカーニバル(謝肉祭)で有名な街の一つ。11月11日11時11分から,カーニバルが始まる(2月まで)。今日が初日! 朝,フランクフルトからICEに乗ろうと思うと,やたらまわりに仮装した集団が。みんなケルンのカーニバルに参加する人たち。もう,乗った瞬間から飲めや騒げのハイテンション。ケルン駅は,そういう人たちで立錐の余地無し。前に進むのが本当に大変だった。 |
ケルン駅前の仮装した人たち |
大聖堂の前のサンバ隊 |
開始の時刻に,ケルン大聖堂の前でサンバが始まった。すごいリズムと踊り。ドイツ人がねぇ…という感じ。ホントに大騒ぎ。
ところが,ケルン大聖堂に入ってみると,そこではミサをやっている(日曜だし)。大聖堂に響く牧師の言葉と時々の斉唱。それがさらに歌に変わる。外の太鼓の音は気にはなるけど,ミサにも引き込まれた。ミサはパイプオルガンで終わる。これがすごい曲だった。終止に至る和音の遷移がおしゃれで,終止したときの歓びがことさら。演奏もすごかった。厳粛な気持になる時間だった。 |
大聖堂内でのミサ |
ロウソクを献灯した |
ヴァルラフ・リヒャルト美術館では,1912年(たぶん100年前というような意味かと思う)と題した企画展をやっていた。ゴッホ,ゴーギャン,セザンヌ,シーレ,ココーシュカなど,見応えのある展示だった。ピカソのアルルカンもあった。中でも目にとまったのは,絵画ではなくて彫刻。ミネの 「亡き子を悼む母」というタイトルで,表現されている子を抱く母の気持ちにうたれてしばらく目が離せなかった。シーレの迫力もすごい。2階はフランドルあたりの作品。なんか知ってるおじさんの顔…と思うのがレンブラントの自画像。もう一度,時間をかけてゆっくり訪れたい美術館だ。
ケルン大聖堂 |
ヴァルラフ・リヒャルト美術館からから見たケルン大聖堂 |
T橋先生たちとは12日の朝でお別れ。先生は東京に,学生はパリを経由して(モン・サン・ミッシェルにも行くらしい)週末に帰国予定。われわれはエアランゲンに戻った。そして,夜はコングレスホールでウィーン・ピアノトリオのコンサートを聴きに行った。
プログラム,粋でしょ。マラルメの3つの詩の最初の2つが同じで,それぞれにドビュッシーとラヴェルが曲をつけている。3つめは違う詩。ラヴェルの方が,感情のこもった曲で素敵だった。演奏については,チェロはとてもうまい。バイオリンの音が細いかなと思ったのだけど,アンサンブルは心底楽しめた。Doufexisの歌も,とても気持ちよく聴けた。