2月22日(金)
H田先生が来独。早朝フランクフルト空港で落ち合って,ケルンに移動。メッセで開催される教育総合展,Didactaに参加した。最新のデジタル教育機器から,カラフルな教育玩具,実験道具や実験設備,教科書や図書などさまざまなものの展示が広大なメッセで行われている。日本の企業としてはエルモが頑張っている。小型の実物投影機とプロジェクタのセットが魅力。徐々に,売り上げが伸びているようだ。 エプソンや日立のプロジェクタやインタラクティブ・ホワイトボードのブースも大きい。日立のものは,ボードそのものより,それをのせた上下ダンパーが中心。スマートもプロメシアンも展示されていたけど,どれも差別化が難しいなと思った。 |
教育総合展(Didacta)の入り口 教育機器,教育図書,教材など いろいろなジャンルのものが展示される 8回目だとか |
didactaの会場 所謂見本市で各社がパネルを連ねる |
ドイツの電子教科書は,あまり進んでいない感じをもっていた。しかし,今回2社,KlettとCornelsenの両社のものを詳しくみることができた。どちらも基本的な機能を中心に使いやすくできているように見えた。ドイツの教科書はとても分厚いので,制作も大変だと思う。現場での利用について聞いてみたけど,まだまだこれからの感じがした。実際,まだそれを使った実践は見たことない。 |
クレット社の電子教科書 |
コーネルソンの電子教科書 |
感情コントロールの模擬授業をやっていた |
ローテクツール こういうのがドイツっぽいと思う |
夜はケルン歌劇場。ドニゼッティのアンナ・ボレーナ。
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臨時のオペラ会場 |
ケルン歌劇場は現在改装中らしい。もともと停まったホテルのすぐ側の劇場のはずだったのだけど,Palladiumという多目的ホール(もとは工場か何かだと思われる)に作られた劇場での公演だった。遠かった。通常,オペラ劇場は円筒形なのだけど,ここはコンサートホールのような長方形。学校の体育館の舞台が広くて,客席が階段状にしつらえられていると思えば良い。
アンナ・ボレーナは,ヘンリー8世の2番目の王妃,アン・ブーリンをモデルにしたオペラ。「ブーリン家の姉妹」でナタリー・ポートマンが演ったのがアン。
舞台 下手(左側)の上部がスクリーン 1階部分は長方形が4つ並んだところ:これが壁紙の感じ 上手(右側)に階段がある 1階部分は,下手と上手の2つの部屋に分かれている |
説明するのがとても難しいけど,舞台は下手2/3に造られた部屋と,残りの部屋とで構成されている。下手側の部屋は2階建てになっていて,上の階には半透明のスクリーンが貼られている。スクリーンの背景も舞台になっていて,そこから上手1/3の部屋におりる階段が造られている。スクリーン裏左←→階段←→右の部屋という移動と,下手袖←→下手の部屋の1階部分,上手袖←→右の部屋,という3つの出入りの仕方がある。スクリーンにうまく光を当てると,シルエットが透けて見える(影じゃないのが不思議)。これを上手くつかって,幽閉されているアンナがエンリコとシーモアの結婚を祝う祝砲を聴くときに,二人のシルエットがゆっくり歩いて登場し,そのまま階段を下りてくる。
主役はアンナなのだけど,后の座を奪うシーモアの役も重要。衣装が,アンナが白銀で,シーモアが赤。最初,シーモアがアンナに仕える場面で,どうしてシーモアの方が目立つのかがわからなかったのが,この婚礼の登場の場面で腑に落ちた。シルエット,衣装の色,衣装そのもの,照明などを緻密に計算した素敵な演出だと思った。 |
日曜日なので,ケルン大聖堂のミサに合わせて見学。再び美しい聖歌とオルガンが聴けた。教会に入る動機としては不純なのだけど…。でもまあ,献金,献灯もしたしな。H田さんは「心が洗われた」らしい(^_^;)
夕方の便でH田さんとロンドンに到着。空港でオイスターカードを買って,ピカデリーでハマースミスまで。ホテルにチェックインして,N中先生たちを待つ。全員そろった所で,タイ料理屋さんで乾杯…とはいっても飲まない人は多いのだけど…。食事をして,明日の打ち合わせの時間を打ち合わせた。
3年前のBETT(イギリスの教育機器見本市)以来のロンドンで,宿の場所もBETTの会場にほど近いということがわかった。前回の宿は,個人的には史上最低だったのに比べて今回は天国のようなホテル。Novotelだけに…。
先にロンドンに入って,友人の家に泊まっていたかみさんと合流。
木の実バター製造マシン 好きな量だけ詰めてレジに持って行く レジで計量して値段が決まる |
2月25日(月)
打ち合わせでは,訪問する学校での調査事項の確認と,提示する資料についての議論をした。今日のオフィシャルスケジュールはこれで終了。訪問は明日から。 その後,T橋君が世界一のスーパーマーケットだと吹聴するWholemartに出かけて中をいろいろ見てみた。確かに,なかなかの品揃え。さまざまな木の実をその場ですり下ろして○○バターをつくるマシンはおもしろかった。おもしろそうだったので,ピスタチオとカシューナッツのバターをつくってみた。 ナショナルギャラリーに行った。はじめて。フェルメールが3枚あった。今,ケンウッドハウスが改装中で,本来はそこにある「ギターを弾く女」が秋までここにあった。幸運! ピーテル・デ・ホーホの絵もよかったな。フェルメールとならんでいて,左からの光線で描く手法が同じなのが一目瞭然。 コヴェント・ガーデンの交通博物館も,T橋君に連れられて行ってみた。ロンドンの地下鉄をどのように造ったかとか,昔からバスがどう変わってきたかなどの展示があって,懐かしかったりおもしろかったり。今も2階建てバスはあるけど,昔は乗り口に車掌さんがいたことなど思い出した。 |
2月26日(火)
ロンドンでもICT導入が特に進んでいるのが,ヘイヴァリング地区。それを進めてきたDaveとのディスカッションから入った。N中さんがずっとコンタクトをとってきた,教育委員会のICT担当部局の人である。この地区だけではなく,英国全体のICT導入の様子や,それにこの地区で作成したICT教育のキット(Switched on ICT)がどのように浸透しているか,などたくさんの情報を得られた。熱心だけどユーモアのある楽しい人で,いいディスカッションになった。 夜はピカデリーサーカスでかみさんと待ち合わせ。その後,N中調査チームとDaveの鉄板焼きパフォーマンスディナーに混ぜてもらった。半年ぶりにお刺身をいただいた。 |
Switched on ICT |
活動,ツール,対象となる領域,学習を効果的にする方法 からできている活動表 |
鉄板焼き:BENIHANA |
ハイランド小学校 |
2月27日(水)
ヘイヴァリング区の中でも特に熱心にやってきたのがハイランド小学校だという。N中調査ではずっと視察をしてきた学校なのだけど,そこに連れて行ってもらった。インタラクティブ・ホワイト・ボードが使われているのはあたり前。さまざまな教育リソースや校務のための情報がイントラネットに収納されていて,どこからでも(家庭からでも)アクセスできる。
全学年の授業を観た。授業では,複数の種類の学習活動が同時並行で進んでいて,それがグループごとにローテーションされたりする。それだけ,課題設定が複雑になるはずだ。でもできてる。 |
ここまでやってきたことで留まっているわけではなく,さらにこれから1年かけて,携帯端末を男子の読み(reading)で利用して効果検証をするということだ。
グループ毎に異なる課題に取り組む |
校務用イントラネットの説明 |
エルムパーク小学校 |
午後,ヘイヴァリング区のICT活用に熱心なもう一つの学校エルムパーク小学校に来た。プレップ(就学前),2年,3年,5年,6年の授業を観た。2年生は体育の授業だったけど,YouTubeのダンス映像と一緒にダンスをする授業だった。日本の先生達が見たら賛否が分かれるかもしれない。 この学校の中核コンセプトは自立(independent)。なので,多くのことを子どもが自発的に学習するようにしくまれている。そのために,ICTが活躍する。利用できるアプリのリストを作っていて,それが何ページにもわたるのでびっくりした。自立的に学習することと,教科内容で押さえなければならないことの関係などについて尋ねてみたが,その内容と関連するようにアプリを選んでいたり,まとめ方を工夫させていたりする。自分たちでICTスキルを高めるために,デジタルリーダーという子どものグループを作っているのも勉強になった。このグループに入ることで,とてもやる気をもてた子どももいるということだ。 |
5年生:エネルギーについての学習 ASIMOやパロについて調べている (エネルギーとのつながりは不明) |
5年生:エネルギーを何に使っているか 調べ学習をしながらウェビング |
2月28日(木)
キングストン小学校(私学の女子校)を訪問した。10年ほど前から,これからの学校の特色(子どもが身につけるべき力)として,ICTを中核においてきた。教科内容が所々で統合されて,ICTとつながっているのがおもしろかった。コンピュータでレーシングカーのデザインをして,それをコンピュータで闘わせるヴァーチャルレースで大盛り上がりだったのが面白かった。何周もまわるのだけど,徐々に順位がかわる。ピットの時間も計算される。優勝した子どものものは,他の学校の代表と闘うということだった。これが,算数の授業。ナショナルカリキュラムは参考にするけど,自由度がかなり高い私学ならでの授業だと思った。 |
キングストン小学校 |
iPadで撮影した映像を見せてリフレクション |
ヴァーチャル・カーレース |
午後,視察のまとめをみんなでして,H田さんが帰国。T橋君お薦めの某ホテルでクリームティーでのんびりして,その後,自然史博物館を駆け足でまわった。入ったところの恐竜の骨格標本は迫力満点。そして,動くT-REX(恐竜にはあまり興味が無く,福井の博物館にも行ったことがない。どうやら同じようなものがあるらしい)。正面にまわると,動くT-REXはそれなりに怖い。でも「足が固定されてて動けない感じ」が不憫。ほとんど,それだけ見て閉館時間となる。
視察は昨日で終了。1日余裕を見ていたので,ウォレス・コレクションを見に行った。ここで見たワトーの 「人生の魅惑」が後におもしろいことにつながっていく。リュートを調弦している人の左手にあるペグ(糸巻き)は何なのか,という話。これは,「共鳴弦のあるリュートとちゃうん?」とその時は言っていた。けど実物のイメージが克明には浮かばなかった。
その後,自然史博物館にもう一度寄った。今度は鳥の標本などをかなり時間をかけて見た。
そして,夜は同じく在外でロンドンに来ているM田先生と合流して,クスクスを堪能。楽しい時間になった。
ユーロスターの待ち時間に行ったカフェの塩胡椒の容器 とても大きくて補充の回数が少なくていいねと言ってたら |
裏返したらすごい上げ底 ワインのボトルみたい(ワインの上げ底には理由があるんだけど) |
ユーロスターでブリュッセルに。ムール貝を食べて帰るつもりで駅を出ると,なんとワトーの特別展のポスターが。さっそくボザールに行って,入館。なかなか面白い展示だった。オーディオガイドを借りたら,絵の説明以外に,展示と連動したその頃のバロック音楽が聴けるようになっている。全部聴いたら帰れなくなりそうなのではしょったけど,音楽がらみの作品が多いワトーの展覧会ではとてもいい。そして,コースの半ばに,当時の楽器のコレクションがあった。ワトーの絵に描かれている楽器が並んでいた。それと,「人生の魅惑」のレプリカが展示されていた。本物はウォレスにあって借りることはできなかったという音声が流れていた(と思う。もしかしたら解説パネルにあったのかも)。これをよく見ると,リュートの棹の形がちがっている。ここのはまっすぐ。ワトーのオリジナルは途中から曲がっているように見える。その他の部分は忠実な模写なのに(のような気がする),棹の形だけちがうのはどうしてだろう…ということが話題になった。よくそんなことに気付くな…言われてみれば確かにそうだ。それにしても,いろんなことが繋がるとてもいい展示だった。
そして,近くにある楽器博物館にまわった。ここは5年前に来たときに時間切れで入れなかった所。中に入ると,自動的に音声ガイドを貸してくれる。これが実に良かった。楽器博物館には何度も入ったけど,いつも思うのは楽器の音色を聴きたいということだった。楽器なんだから形だけみてもね。で,この音声ガイドは,(全てではないけど)楽器の前に立つと,その楽器を使った演奏が聴こえてくるというしくみ。ハーディガーディーの音ははじめて聴いたような気がする。そして,ワトーの絵の謎の回答がここにあった。まさに,共鳴弦つきのリュートだった。そして,それには棹のまっすぐなのと曲がったのものの2種類あるのだった(曲がった棹・まっすぐな棹)。模写の方はまっすぐな棹の方をイメージして描いたのではないか,というのはかみさんの言。時代(楽器の形の変遷)に合わせて,描き変えなければならなかったのかもしれない。…というわけで,ウォレス,ボザールに加えて,楽器博物館まで繋がる面白い旅になった。偶然って面白い。
チェンバロ(左)とピアノ(右)の発音のしくみ 実際に鍵盤を押さえて音が出る瞬間がわかる |
弦楽器の工房 いつも通っている工房とにた感じ |